エドワード・ルトワックの楽しみにしていた新刊が発売された。ルトワックの本は『戦略論』などの翻訳書としてはかなり読むのに苦労するのであるが、今回は新書だ。
日本の戦略学の研究者である奥山真司さんの翻訳によるものですが、元々は奥山さんがルトワックにインタビューしたものを書籍としてまとめたもの。語っている言葉がベースになっているので、ルトワックの著書の中でも抜群に読みやすい。戦略論に興味のある方はおすすめです。
ルトワックの新書はこれで3作目。
ちなみに前2作についても以前このブログの中で扱いました。
エドワード・ルトワック『中国4.0 暴発する中華帝国』さて、日本はどう考える?今読んでおこう!
ルトワック『戦争にチャンスを与えよ』で大人になろう!果たして日本はチャンスを掴めるか?
もはや新書はシリーズ化しているとも言っていいでしょうね。今回のタイトルは『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』です。
一気に読める内容でした。ルトワックの著書ではなかなかこうはいきません。
頭がホットなうちに、その直面するリアルを記しておきましょう。
中国4.0→戦争にチャンスを与えよ→日本4.0
ルトワックの新書はこれで3冊目と書きました。『中国4.0 暴発する中華帝国』『戦争にチャンスを与えよ』そして今回の『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』です。
どれもその出版時に置かれた世界情勢のもとて書かれているので、現代の日本が置かれている状況とそれに対する日本が取るべき処方箋が語られています。日本のお花畑な思考に慣れている人にとっては、毒気が強い内容ではあるのですが、それくらい世界の現実は厳しいというものを知ることができるでしょう。
日本はリスクを取らないといけない世界にいきているということを知ることになるでしょう。
日本4.0? 1.0、2.0、3.0とは?
書名の『日本4.0』は日本の現状、あるいはこれから向かうべき方向性というものを示しているのはわかると思いますが、1.0から3.0は何を示すのでしょうか?
日本1.0は江戸時代。戦国時代の争いが終わった後の長期的に安定した江戸というシステムのことです。
日本2.0は明治維新以降。近代化、富国強兵を進めて西欧諸国に追いつき、強大な国家の一員となったことです。
日本3.0は敗戦後から復興してこれまでに至るまでの日本です。冷戦下に置いて安全保障は日米同盟を頼りにすることで、他のリソースを経済発展に費やして豊かになってきたこれまでの日本です。
なんだかこのあたりの流れって、落合陽一さんの『日本再興戦略』にも出て来そうな感じです。
そして、日本4.0は、北朝鮮をはじめとした周辺国からの危機の時代に対処する日本のあり方です。
ルトワックはこう語ります。
抑止のルールの外側に出ようとする国家に対して必要なのは、「抑止」ではなく防衛としての「先制攻撃」なのである。
これまでとは時代が違うということをしっかり認識しなければならない言葉でもあります。
リアリズムの欠如とリスクの回避
よく言われることですが、日本にリアリズムが本当に必要だと感じます。この本の中でも随所に感じられることがあります。
おもしろかったのは、日本に核兵器は必要ないという主張です。よく、日本は核兵器を毛嫌いする平和主義者ばかりですが、その一方でしっかり軍備を整えるべき、憲法9条を改正すべきと主張する人に核配備を言う人が結構います。
ルトワックのリアリズムからすれば、9条を改正してキチンとした軍組織にすることは当然なのですが、ルトワックは核兵器は必要ないという。核兵器は相手の核しか抑止できない。と同時に、それがわかっている相手で無いと持っていても意味が無いというわけです。
要するに、正気で無い相手に対しては、核抑止論は全く意味がなく、必要なのは相手の核を無効にするための先制攻撃能力だというのです。
先制攻撃能力はよく日本でも言われるようになりましたが、まだまだ及び腰です。でも、こういう話がもっと出てくるならば、少しは変わってくるのでは無いでしょうか。
それに、イージスアショアの配備の計画がありますが、これもあまり意味は無いと。意味が無いわけでは無いのですし、配備すればいいのですが、それが完成するのは今から5年とか6年とか先の話。現在の危機には全く対応できないわけです。ルトワックは今ある航空兵器をさっさと改修しろと言います。
やるべきことをやる。まさにこれがリアリズムでしょう。
リアリズムはリスクをしっかり引き受けることでもあるのだと思います。そうすることが、逆に効率的で無駄を食わないというのが、この本の中の米軍の特殊部隊の話でした。
米軍の特殊部隊と言うと、最新兵器を持った優れた戦士の集まりというイメージがありますが、実際にはあまり有効に機能していない面も多いようです。しかもお金がかかるだけ。というのも、リスクを負って作戦を実行せず、実行するための準備、調査に膨大な時間と労力をかけ、結局、犠牲を出さないようにするために効果的な作戦を実行することができず、ショボくて馬鹿馬鹿しいような作戦を実行してしまい、結局、金だけかかって失敗しているも作戦がたくさんある。
この文章が象徴的でした。
たとえば特殊部隊の任務中の犠牲率は、アメリカの都市で夜中まで働いているコンビニの従業員が強盗に遭う確率よりも低い。なぜだろうか? 彼ら特殊部隊は「前実行可能性調査」、「実行可能性調査」、そしてさらなる計画の検討などを経て、計画を作り込みながらも、しばしば直前になって実行をキャンセルしたりするからだ。
この事例を見ただけで、米軍最強と思っている我々も、どこか勘違いをしているように思えました。どうも米軍さえも、軍の官僚化というか、組織の肥大化で、日本の財務省の不祥事構造と同じようなものになっている面があるようです。
となると、時々、軍事評論家などが米軍の組織や武装を例にあげて、「これを参考にして日本にも同じような組織を作るべきだ」というようなことを言います。これは、ひょっとしたら大きな間違いを犯しているのかもしれません。米軍もリスクを回避して失敗しているのですから。
日本はもっとリスクに対して耐性を持つべきで、ルトワックの言う「作戦実行メンタリティ」を身につけるべきでしょう。
いつまでも戦後ではありません。それに、戦前とはやり方も違うということも認識しないといけません。日本は平和主義ではなくて、単に戦前のことしか考えて無いのでしょう。
最後に
この本、中身にどんどん触れてここに書いてしまうと面白みが無くなると思いますので、このあたりでやめておこうと思います。ぜひ手にとって読んでください。
最後に、この本の中で目をひいたルトワックの言葉を置いておきます。これまでで述べたこととはちょっと趣が違いますが、日本にとって大切かメッセージでもあると思います。
私は日本の右派の人々に問いたい。あなたが真の愛国者かどうかは、チャイルドケアを支持するかどうかでわかる。民族主義者は国旗を大事にするが、愛国者は国にとって最も大事なのが子どもたちであることを知っているのだ。