エドワード・ルトワック『中国4.0 暴発する中華帝国』さて、日本はどう考える?今読んでおこう!

ルトワック「中国4.0」




発売を楽しみにしていた本を買った。訳者の奥山真司さんが昨年末のインターネット番組でこの本の出版の予定を語っていたので待ちに待っていたわけです。

米国の戦略家エドワード・ルトワックによる中国についてのホットな分析の書『中国4.0 暴発する中華帝国』がそれです。この本は2013年に日本でも出版された『自滅する中国』の続編的な位置の意味を持つ本でもあります。

訳者の奥山さんが昨年の秋頃に来日したルトワックに6回にわたってインタビューした内容をまとめたものだけあって、専門書と違ってとても読みやすい。期待してた以上でした。

ルトワックの戦略本は分厚いし専門家では無い人間にとってはとても難解であるということを考えれば、今回のこの新書は戦略論に関心を持ち始めた人間にとってはとてもラッキーでしょう。

訳者の奥山さんによるルトワック戦略論のキーワードが本書の第6章で解説されているのもありがたい。個人的には奥山さんにもそろそろ戦略系の新たな単著を出版して欲しいのですがね。

発売日(平成28年3月18日)に購入し、連休もあることなのでゆっくり読もうと思っていたのだが、知的刺激が強かったためか、一気に読み終わってしまうことになってしまいました。

まさに「今この瞬間に読むべき本」という感じ。

さて、内容に移りましょう。

ここ数年、数ヶ月に起こった中国に関する話題を時代の流れとともに整理しながら、ルトワックの鋭い分析が入ります。これまで中国の動きは、中国1.0の平和的台頭から中国2.0の対外強硬路線へ変化し、孤立を回避するために中国3.0の選択的攻撃に移行、そしてこれからはどうあるべきか… この分析には日本の中国専門家が語る内容とは一線を画すものがあり、昼のワイドショーなどでの中国解説を見ながらモヤモヤしていく自身の頭を覚醒させてくれるものでもあります。

時々、「なんやそりゃ?」ってツッコミを入れたくなるような面白い、いや、リアリズムに満ちた論評もありました。

一例を挙げましょう。P60に米軍基地を追い出したにもかかわらず、中国の思わしくない動きから再び米軍を招き入れることになった状況において、フィリピン政府の対応のまずさをこのように指摘しています。

ただし逆に、フィリピン政府の弱さも同時にかいま見える。
たとえばマニラ政府の対応でまずかったのは、二つあり得た対応策のうちどちらも実行しなかったことだ。一つは沿岸警備隊に発砲を命じなかったことである。もう一つはマニラのギャングに指示して、フィリピンにたくさん来ている中国の観光客を襲わせなかったことである。

ギャングに指示して観光客を襲わせる?

思わず目が点になりました。

実際にそういうオプションをどの国も持っているのかもしれないし、裏社会との力の繋がりというのはどの国にでもあるでしょう。が、こういう本で真正面から当たり前のように出てくるとは思いませんでした。

いや、逆にこういうことを当たり前にやるのが国際政治の世界の常識なのかもしれません。数年前の中国の反日デモは裏で中国共産党の指示だというのは評論家などがよく語っています。それと同じなのでしょう。

日本の平和ボケで緩んだ思考では、こういう発想は出て来ないのかもしれません。ある意味でまずい。日本の甘さを身にしみる思いです。

ルトワック戦略論のキーワードともいうべき「逆説的論理」という言葉とともにこの本で特に印象的だったのは、国が戦略の誤るのは自分たちにとって都合の良いありもしない敵を「発明」してしまうことからくるという話です。戦前の日本の真珠湾攻撃、2003年のアメリカによるイラク侵攻を例に語られます。

しかもこの戦略的誤りは感情的なものから起こり、同じ間違いを中国も歩んでいるということです。このあたりは国だけでなく、個人や集団にも当てはまるのではないかと、最近の政治周辺に対するいろんな集団の動きを見てると感じますね。

日本の中国専門家が「実際の中国はこうだから過剰に心配する必要は無い」というような論評をマスコミなどで発表したりしていますが、それとは違った見えない力学が意識せずとも働いて違った現実として現れているような気がします。

ルトワックの本からはこの見えない力学を感じることができるわけです。

中国の動きも変化してきていますが、これに対して日本はどう対処すべきかの提言もあります。特に難しいことを示されているとは思わないのですが、日本の奇妙な空気からすると覚悟が必要に思えますね。普通なら覚悟する必要もないことなのですが。

実に軽快に読めて味わい深い本だったのですが、日本の左右双方の論客の語る「アメリカとかとはどういう国か」「中国とはどういう国か」とはかなり視点が違うのは確かで、そこはとても新鮮でした。日本で語られる話って袋小路にはまってる感じです、陰謀論的なものもあったりしますしね。

中国論としてだけでなく、国際政治における戦略論としての学びも大きい1冊。戦略が弱いと言われる日本だけにさっさと読んで考えてみるべしという思いです。

奥山さん、翻訳本じゃなくて単著を早く出してくれないかなぁ?(追記:現在、地政学についての新著を執筆中のようで、とても楽しみです。→『次に出す本の「まえがき」』)

ということで、『中国4.0』はマジでオススメの1冊です。

ちなみに奥山さんがブログでこの本の制作秘話を書いていますので、合わせて読むのも面白いですよ。(ルトワック著『中国4.0』の制作秘話