本屋の棚に何気なく刺さっている本に手を伸ばした1冊が、時として大きな価値を生む掘り出し物だったりすることがあります。
今回取り上げる1冊はまさにそれでした。ポジショニング戦略について考えるとき、強力な実践力を持った視点を与えてくれます。
本屋の棚に並んだ本の背表紙を眺めていて目に飛び込んだのが監修者の星野佳路さんの名前。
星野佳路さんの経営といえば星野リゾートの斬新さに目が行きがちですが、その経営戦略は大学で使われるような教科書の内容を基礎にした原理原則を重視している側面が感じられます。
価値あるビジネスを作るのは、手軽に読める話題のビジネス書ではなく、そういった原理原則。『星野リゾートの教科書』という本に、星野さんが経営の教科書としてきた書籍が紹介されており、まさに原理原則の芯のある本ばかりが挙げられています。
そんな記憶もあったためか、パラパラとページをめくった瞬間に「これは買いかも」と思って購入した1冊がこれです。
フレッド・クロフォード/ライアン・マシューズ 著
『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』
ちなみにこの『ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』は『星野リゾートの教科書』では当時未邦訳だったため紹介されれいません。
ポジショニング戦略に悩む
「ポジショニング」というと、ビジネスの世界では当たり前の考え方であり、誰もがどうポジショニングを築いていくか頭を悩ませていると思います。アル・ライズ、ジャック・トラウトの『ポジショニング戦略[新版]』を読んだ人も多いはずです。
SWOT分析を使い、ニーズ・ウォンツ分析チャートやポジショニングマップを作り、USPを発見し、顧客にメッセージをどのように届ければマインドシェアを築くことができるかといった、要するにライバル企業との違いや独自性をどう作れば市場の支配的位置に立つことができるかにどの企業も必死になっています。ブルーオーシャン、ブランディング、言葉は違いますが目的は同じです。
みんな独自性を作らなきゃいけないのは十分にわかっているはずなのに、なかなか実感するものが出来ない。
ポジショニングをどう構築していけばいいのか手探りな状態が強く、切り込み方のイメージつかめないで困っているということも多いでしょう。
例えばポジショニングマップを考える場合、本などに事例として挙げられているもののように、自社のビジネスを上手くプロットできる縦軸・横軸を持ったマッピング自体が出来上がらないといったことがあります。まさに、その軸を設定すること自体が自社の独自性の発見の一番困難なプロセスだったりするのです。
ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略とは
この困難な状況にファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略が一つの実践的な視点を提示してくれます。
ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略はビジネスを5つの要素に分けます。
「価格」「サービス」「アクセス」「商品」「経験価値」
この5つの要素について、ビジネスに携わっている人にとっては特に説明の必要は無いものと思います。ビジネスにおける自明の特徴と言っていいでしょう。この要素のそれぞれの価値を上げるのが、ビジネスとして自然な形です。
ですが、ここに上手くいかない原因も含まれています。誰もがこの5つの要素を全て最高のものにしようと努力してしまう。これが問題を難しくしているのです。
全要素を最高のものにするという考えは素晴らしい。ですが、それを実現したとして、果たして利益が出るようなビジネスになっているのでしょうか?おそらく経営資源をあらゆるところに投入することでコスト高になり、ビジネスとして成り立たないものになっているはずです。
この要素のどこで勝負するのかがポジショニング戦略に通じることですが、そのままだと今までの考え方と大差ありません。選択と集中という抽象的なレベルで終わってしまいます。
5つの要素のウェイト付けがポジショニングを決定する
ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略のポイントは、この5つの要素をウェイト付けすることにあります。
この5つの要素についてそれぞれ5段階で自分のビジネスがどう当てはまるのかを次の基準で評価します。
- 5点・・・市場を支配している(消費者が企業を選び出す)
- 4点・・・差別化できている(消費者が企業を好む)
- 3点・・・業界水準に達している(業界標準に達している)
- 1点及び2点・・・顧客から信頼されていない
ビジネスとしては1点、2点は論外というところから始まります。業界水準に達していないビジネスに価値が無いのは当たり前です。
ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略は、このスコアを5・4・3・3・3を5つの要素の理想の配分としています。
つまり、
- 1つの要素で市場支配(5点)
- 別の1つの要素で差別化(4点)
- 残りの3つの要素で業界水準(3点)
を達成することで競争優位なビジネスを構築するという考えです。
これを業界水準以上で組み合わせを考えれば20パターンの違いが生まれることになりますし、業界全体としてみれば水準に達していないところもあるのでもっと多くの違いが生まれているということになります。結果として自社のポジショニングも他社と違ったものになり、独自性を打ち出すことができるのです。
この視点でビジネスを考えれば、闇雲になりがちなポジションングも回避できます。それに当面のライバル企業は20社もいないはずで、特徴が重なるということにはまずならないでしょう。
試してみる価値があり!
全部の項目を最高レベルを目指さないというのも見通しが立てやすい。先にも書きましたがコストに見合わない。お金だけでなく人材的な側面においても同様で、経営資源の選択と集中も戦略的に取り組むことができます。
実際のポジショニングの構築に直結するアプローチ法を示した1冊。この本の提案通りに試してみる価値はある。考え方がスッキリしているので、本当にオススメです。